2023.02.20MEDISO:インタビュー
認定VCインタビュー 三菱UFJキャピタル株式会社・長谷川 宏之様
国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)の「認定VC(ベンチャーキャピタル)」シリーズ、今回は三菱UFJキャピタル株式会社(以下「MUCAP」)の上席執行役員でライフサイエンス部長も勤める長谷川宏之様にMUCAPでの取組と日本のライフサイエンスベンチャー業界について語って頂きました。
最初に長谷川様のご略歴を教えてください。
薬学修士課程修了後、第一製薬株式会社(現 第一三共株式会社)に入社し、市販後調査部門で感染症・癌領域を担当していました。当時遺伝子解析ベンチャーと関わる仕事をしたことはありましたが、直接ベンチャーへの投資経験はありませんでした。社会人10年目に一念発起してUFJキャピタル株式会社(現 MUCAP)に転職し、社内でのライフサイエンス分野の投資評価に資する情報を提供するアナリストとなりました。当時、ライフサイエンス分野への投資規模は小さく、特化ファンドもありませんでした。その後、キャピタリストに転向し、投資活動を通じた問題認識からアカデミア発の「有望な創薬基盤技術」の事業化を支援するOiDE(オイデ)ファンドを第一三共株式会社と共同で2013年に設立しリスクマネーを活用したオープンイノベーション活動を開始しました。2017年からはライフサイエンス特化ファンドである三菱UFJライフサイエンス1号・2号・3号ファンド合計300億円を活用した投資活動を推進しています。
MUCAPの投資先の特徴を教えてください。
MUCAP全体でみると投資先案件数(2021年度)ではIT分野が最多(41%)ですが、ライフサイエンス分野もそれに次ぐ24%を占めています。ライフサイエンス分野の中では、プラットフォームも含めた創薬系が60~70%を占め、残りがメドテック・医療機器関連です。最近は新潮流であるデジタルセラピューティクスにも注目しています。当社の特徴として投資先のエグジット(IPOやM&A)後も、三菱UFJフィナンシャルグループとして継続してご支援させて頂きたいと考えており、多くのベンチャーと接点を持たせて頂くためフォロワー投資だけでなくリード投資も行っています。
投資先としてライフサイエンス分野が拡大してきたとのことですが、ライフサイエンスベンチャー業界は何が変化したのでしょうか。
私がVC業界に転身した当時と比べると、ライフサイエンスベンチャーのエコシステムに属するプレイヤーは多様化しリテラシーも向上しており隔世の感がありますね。製薬企業からベンチャーやVCに転職する人は当時極めて稀でしたが、現在では珍しくありません。また「ライフサイエンス分野への投資」を掲げるVCの増加、特に大学系VC、独立系VCや地域密着型VCの台頭は目を見張るものがあります。
一方で業界としての課題もあります。ライフサイエンス分野のVCが増え、投資金額は増加しているといっても、米国との差は益々拡大しています。日本版バイドール法(大学等技術移転促進法)施行や東証マザーズ(現 グロース)等の新興市場創設、政府による各種ライフサイエンス振興施策により、大学発ライフサイエンスベンチャーへの投資が盛り上がりを見せてから四半世紀が経ちますが、「成功事例」つまりアカデミア発シーズを基にした創薬ベンチャー由来の医薬品が承認・上市された事例は殆どなく、「お金の循環」が未だ一巡していません。つまり次の投資を呼び込めていないのです。
課題を抱えるライフサイエンスベンチャー業界を活性化するために一つ施策を提案するとしたら何がありますか。
ライフサイエンスベンチャーに限った話ではありませんが、日本でも米国のように年金基金等の運用資金がファンドへ流れるようにすることです。国内VCによる投資資金は一兆円に満たない規模に留まっていますが、年金基金の資産運用の割合をわずかでも変えるだけで大きな変化が起こります。日本で機関投資家の資金が流れてこない原因は、国内ベンチャーファンドが優れた投資対象とまだ認識されていないためです。昨年、年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)が国内ベンチャーに投資するVCファンドに投資したニュースがありましたが、ベンチャー業界さらにはライフサイエンスベンチャーが「儲かる」投資対象であることを我々VCが証明する必要があります。今回AMED認定VCとなったことを契機に創薬ベンチャー由来の医薬品の承認・上市をぜひ実現したいですね。
(取材者:三菱総合研究所 森卓也・末松佑麿)