2024.12.06MEDISO:インタビュー
認定VCインタビュー:大鵬イノベーションズ合同会社様
国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)の「認定VC(ベンチャーキャピタル)」シリーズ、今回は大鵬イノベーションズ合同会社(以下、大鵬イノベーションズ)代表/マネージングパートナーの下村 俊泰様、パートナーの宮腰 均様、Vice Presidentの福嶋 雄一様、シニアIPマネージャーの前田 政敏様にお話を伺いました。
大鵬イノベーションズでの取組みや医療系ベンチャー業界の活性化に必要な要素等、幅広く語っていただきました。
社名
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大鵬イノベーションズ合同会社(Taiho Innovations, LLC)
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所在地
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東京都港区虎ノ門1丁目17番1号 虎ノ門ヒルズビジネスタワー15階 CIC Tokyo
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設立
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2019年5月30日
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最初に皆様のご略歴を教えてください
(下村氏)1999年に外資系製薬会社に研究職として入社し、2004年からオンコロジー領域のプロジェクトリーダーとして開発候補品を複数創製しました。2009年に、大鵬薬品に入社しオンコロジー領域の創薬研究に加え、早期臨床開発にも従事しました。2016年7月より3年間、大鵬薬品の米国CVCであるTaiho Venturesに立ち上げメンバーとして参画し、アメリカの西海岸(Menlo Park)で10社への投資を経験しました。これまでにそれらのうち5社がIPO、1社がM&Aに成功しています。大変な時期でもありましたが、貴重な経験ができました。帰国後は、研究開発企画部門と経営企画部門を経験し、中長期創薬戦略やポートフォリオ戦略策定を主導し、2023年7月に大鵬イノベーションズに参画しました。
(宮腰氏)2004年に大鵬薬品に入社し、オンコロジー領域の創薬研究プログラムを主導してきました。2020年にTaiho Venturesに出向しアメリカ西海岸を拠点に投資活動や、大鵬薬品と欧米のバイオテック・アカデミア間の協業を支援していました。そして2023年10月に大鵬イノベーションズへ加入しました。
(前田氏)2008年に化学メーカーに入社し、主にタンパク質やペプチドをベースにした創薬研究に従事していました。2013年に大鵬薬品へ入社し、知的財産部門で、特許出願・権利化、知財戦略、国内外の知財訴訟を担当していました。昨年1月より、兼任という形で、大鵬イノベーションズに参画しています。
(福嶋氏)2008年に大鵬薬品に入社し、学術職、MSL(メディカル・サイエンス・リエゾン)としてがん領域の治療開発に従事、希少がん薬の上市に携わりました。2024年7月から大鵬ノベーションズに参画しています。2023年にはTaiho Ventures に出向し、1年間の投資活動を経験しました。
認定VCの採択機関の中での、御社の特徴を教えてください
(下村氏)他のVCと比較して、起業前の大学シーズに着目しているのが特徴です。研究の早期の段階からご支援させていただく機会が多く、良い創薬シーズをどうしたら上市できるのかを研究者の方と一緒に考えながら支援しています。一方で大学の研究者のサイエンスに対する考えが、時としてビジネスや実用化の思考と異なるという難しさに直面することがあります。研究者側は技術の有用性や差別化に専門的な知識があり、我々は市場におけるニーズや上市に至るまでの戦略が専門です。まずは、互いに意見交換し目線を合わせるところから始めるように心がけています。
例えば、診断薬だけでは患者さんのニーズに応えることは難しく、診断と同時に治療方法の提案が必要になります。どのようにその診断薬や治療薬が使われるのかについてビジネスにおけるストーリーが必要で、それらを一緒に議論させていただいています。
(宮腰氏)事業化や社会実装を研究者の方々と考える上で、埋めなければいけないギャップは大きく2つあり、1つは今、下村がお話しした事業性の視点というギャップです。もう1つは情報のギャップです。我々は事業化のために各国の最新の開発・技術動向や市場のトレンドの情報を広く捉える一方で、研究者は研究領域で深く情報を捉えます。これらのギャップを埋め、目線を揃えた上で、事業化を検討することが一番大事になると感じています。
ここ数年日本の医療系ベンチャー業界も盛り上がりを見せていますが、変化として注目される点はありますか
(下村氏)ひとつは出口戦略の変化が挙げられると考えています。未だIPOを目指すベンチャーが多いですが、徐々にM&Aを出口に据える企業も増えてきている印象です。理由の1つとして、IPO後に思うように株式市場からの調達が進まず研究開発が停滞する例が多く見られています。アメリカのようにIPOの前に他企業との提携を確立し、キャッシュが潤沢な状態で研究開発を続けることが理想ですが、日本では思うようにいかないケースが多い印象です。
(福嶋氏)政府による支援策が充実してきたと感じます。これまで、他国にも負けない研究実績があるにもかかわらず、ビジネスに繋がらないという状況でしたが、政府による本腰を入れた支援が進んでおり、日本らしい創薬エコシステムが構築される機運が高まってきていると感じます。伴って製薬企業はベンチャーとの連携をより強化しようとする動きが出てきています。一方で、技術力の高いベンチャーが増えるということは、当然海外の投資家や企業もそれらを狙っていることは認識し、国内の製薬会社やそのCVCはグローバルの環境下で協働しつつも戦っていく力をつける必要があると思います。
まだまだ課題を抱える医療系ベンチャー業界ですが、業界を活性化するための一手を提案するとしたら何があげられるでしょうか
(下村氏)大手製薬企業がもっとベンチャー業界へ関わりやすい制度や環境を整える必要があると思います。ベンチャー企業の支援に関する政府の施策は充実してきましたが、大手企業側へのアプローチは限定的だと感じます。アーリーステージの投資では一時的に大手企業の持分法適用会社となってしまうことがありますが、そのような場合に応募できない支援事業もあります。ベンチャーのExit機会を増やすためにも大手企業が積極的にベンチャーと一緒にリスクを取れるような環境整備も必要でしょう。一方で、ベンチャー企業側の課題は品質のコントロールです。この分野は製薬企業からベンチャーへの人材流動性が低いのでベンチャー企業は外部委託に依存することになります。ただ、どこに委託すればいいのかわからないため、適切な委託先の選定のために、認定制度や客観的な評価の仕組みがあるとよいと思います。
(宮腰氏)CMC(Chemistry, Manufacturing and Control)と臨床試験のデザインはM&Aの際に重要な項目です。製薬業界に蓄積されている臨床開発とCMCの様々な失敗と成功の経験がベンチャーに注がれる環境が整備され、グローバルでのM&A事例が出てくるようになると更に業界が盛り上がると思います。
(福嶋氏)ベンチャー企業の臨床開発のレベルアップを目指すという観点で、当社のような製薬会社のCVCが増えてきたことはいい流れだと思います。海外も含めてVCの場合は、投資対象とするシーズの目利きの重要性もあると思いますが、基礎研究に精通した方が多く携わっている印象があります。臨床段階に入るシーズの数が増えてきていますので、今後は臨床開発をサポートする必要性も出てくると思います。そういう意味で製薬会社のCVCは、製薬企業が持つ臨床開発のノウハウを持ち合わせています。製薬企業は製品の上市の裏で多くの失敗を経験しているものですが、基本的にそれらの経験が社外に出ることはありません。ベンチャー業界を盛り上げるためにも、臨床開発に関わった人材がもっと多く関わりながら、成功体験と共に失敗体験をベンチャー企業やアカデミアの先生方と共有しながらビジネスを作っていくような状態になると良いと思います。当社もCVCとして臨床開発や薬事戦略も含めたノウハウを提供しながらご支援できればと思います。
(前田氏)医療系ベンチャーは大学発の技術起点の企業が多いことを考えると、知財の観点も重要でしょう。やはり企業目線で見るとアカデミアの特許は不十分なところも多いように思います。例えば、研究費の獲得のために企業にシーズを紹介しようとすると、秘密情報を特許化してから企業側にアプローチすることになりますが、研究途上が故に不十分な状態で特許を申請してしまうケースが見られます。まずは外部に頼ることなく研究活動を行える資金的基盤の整備が必要だと思いますが、同時にアカデミアに対して公表前にしっかりと事業化を見据えた知財戦略を立てるための支援を提供するというのが必要ではないかと思います。これができれば事業化を実現できる良い特許を持ったベンチャーが増えてくると思います。
(取材者:三菱総合研究所 山﨑祐樹・山口将太)