2024.04.08MEDISO:インタビュー
MEDISOインタビュー記事 株式会社テンクー様
MEDISO相談企業である株式会社テンクー様が、シスメックス株式会社様とのシステム連携(2023年3月15日)、H.U.グループホールディングス株式会社様との戦略的資本業務提携(2023年10月23日)を通じ事業を拡大されています。また、厚生労働省より「プログラム医療機器に係る優先的な審査等の対象品目」の指定(2023年3月29日指定)を受けて、承認申請対応を加速化させています。
そこで今回は、株式会社テンクー 代表取締役社長 CEO西村 邦裕様に、事業内容、大企業との事業提携、目指されている将来像等について、お話を伺いしました。
提携の詳細はこちらをご覧ください。
株式会社テンクー様 ニュースリリース:
シスメックス株式会社様とのシステム連携
H.U.グループホールディングス株式会社様との戦略的資本業務提携
「プログラム医療機器に係る優先的な審査等の対象品目」の指定
テンクー様がどのような会社か教えてくだい
私たちは、医師と協力して、日本人の2人に1人が罹る「がん」の患者さんに「最高の医療」を提供するデータインテリジェンスのプロフェッショナル集団です。 「最高の医療」とは、「患者さんの『がん』をゲノムレベルで解析し、がんの特徴を理解して診断し、その結果から絞り込まれた治療候補から、患者さんご自身が十分に理解し納得したうえで選択した治療」であると考えています。
テンクー様のがんゲノム医療での取り組みについて教えてください
ゲノム情報を用いたがん医療は、2015年に当時のアメリカ大統領オバマ氏による「Precision Medicine Initiative」における「がんに対してゲノム情報を使った個人に最適な治療を日常的に受けられる世界を実現する」という提案から始まりました。この提案の影響を受けて日本でも2016年からがんゲノム医療を推し進める機運が高まってきて、2019年に保険診療が始まっています。
がんゲノム医療は次の5つのステップで患者さんに提供されます。
①患者さんから採ってきた検体を次世代シークエンサにかけゲノム情報を読み取る
②ゲノム情報を解析して遺伝子バリアント(変異)の有無やマーカーなどを調べる
③解析された情報に基づき日々更新される膨大なデータベースや論文の情報等から
患者さん個人に合う薬剤や治療法をピックアップする
④ピックアップされた結果をエキスパートパネルと呼ばれる専門医たちの会議で検討する
⑤適切な診断や治療を患者さんに届ける
私たちが開発した「Chrovis 【クロビス】」は②③④⑤の部分を支援します。私たちはデータインテリジェンスのプロフェッショナルとして、②の解析能力、③の検索・ピックアップ能力に強みを持っていますが、ユーザビリティ・デザインにも力を入れています。 というのも、「患者さんご自身が十分に理解し納得したうえで選択した治療」を提供するためには、検索・ピックアップした情報が正しいことは当たり前で、その情報を医師が素早く正しく把握でき、さらに患者さんに分かりやすく説明できることが求められます。そのため、私たちは創業時からCDO(Chief Design Officer)を据えて、④・⑤の医師・患者さんへの情報提示におけるユーザビリティ・デザインにもこだわることで、医師と患者さんの双方が理解を深め、話合うことでより納得感のある医療の提供に貢献しています。
起業のきっかけを教えてください
「論文を書き、研究成果を世に広めることで、社会に貢献する」という研究者としてのキャリアも魅力的でした。しかし、「社会実装を人任せにしていたら、社会で役立てられるまで非常に時間がかかってしまう」と考え、自らの手で社会実装までやろうと起業を決意しました。 また、環境も起業を後押ししてくれました。私が大学4年生から博士研究員時代までを過ごした東大先端科学技術研究センターは多様な専門家がいる学際的なセンターでしたので、開発したソリューションを医師、ゲノムサイエンスの研究者、情報系の研究者等に試してもらう、フィードバックをもらう、改善するというPDCAサイクルを回すことが気軽にできました。さらに、産学連携部門もありましたので、知財対応を含めた知識を得ることもできました。
テンクー様が指定を受けた「プログラム医療機器に係る優先的な審査等の対象品目」について教えてください
「プログラム医療機器に係る優先的な審査等の対象品目」は厚労省が試作的に実施している施策で、進捗管理や承認申請者と承認審査関係部署との調整を担うコンシェルジュがつく、優先的に対面助言が受けられる、優先的に審査が受けられる、といった支援が得られます。この施策を十分に活用し、「Chrovis」を2024年中に薬事申請し、2025年中に上市させることを目指しています。
テンクー様のシスメックス株式会社、H.U.グループホールディングスとの事業提携について教えてください
シスメックスとのシステム連携は、シスメックスが開発したエキスパートパネルの運営を支援するOncoGuide NETと私たちのアノテーションサービスである「Chrovisアノテーションサービス」を連携させることで、エキスパートパネルに関わる医師の負担をより軽減することを目指すものです。シスメックスとは2016年からの臨床ゲノム情報統合データベース整備事業「大規模ゲノム医療体制の確立と知識データベースの構築」という事業でシスメックス子会社の理研ジェネシスと私たちが協力したことでつながりができ、今回の事業提携に至りました。
H.U.グループホールディングスとの戦略的資本業務提携は、全ゲノム解析のシェアが日本で最も高いH.U.グループホールディングスの子会社であるエスアールエルと日本でトップレベルの分析力を持つ私たちが連携することで、将来的にゲノム医療をワンストップで提供できるサービスの展開を目指すものです。エスアールエルとその親会社であるH.U.ホールディングスとは、事業領域が近いため過去よりつながりがありましたが、2019年のがん遺伝子パネル検査の保険診療の開始、政府の全ゲノム解析等実行計画2022の策定等を通じ、ゲノム医療の普及に向けて機が熟したと判断し、今回の業務提携に至りました。
大企業との事業提携を目指されている医療系ベンチャーは多くいらっしゃいます。そのような医療系ベンチャーに向けたアドバイスをください
大企業の規模の大きさに気後れして、下請けのような立場になってはならず、対等な立場で提携を結ぶべきです。 視点を変えると、ベンチャーであっても、必ずしも大企業と比較して規模が小さいということではないと考えています。テンクーは、現在40人程度のエンジニアやアノテーション等のゲノムデータ解析の専門家集団です。大企業であっても、同様の専門家を40人以上抱えている企業はほとんどなく、専門家集団という観点では私たちの方が大きいと言えます。質も量もニッチトップであるという気概を持ち、自らの目標達成のために必要な提携を模索することが重要です。
テンクー様は何度もMEDISOを活用くださっています。MEDISOに対しては、どのような印象をもたれていますでしょうか
私は研究者でしたので事業化についてはほとんど素人でした。そのため、起業するにあたり事業化に関し沢山の勉強をしてきました。しかし、実際に企業を経営してみると、本やセミナーで得た知識だけでは判断できない問題がたくさん出てきます。そのような問題に対して、MEDISOでは、専門家から事業の現状を踏まえた実用的なアドバイスをもらうことができます。例えば薬事トラブルの具体例は、本には書かれておらず、事業を安全に進めていくために参考となり、非常に役立ちました。
テンクー様が目指される将来像を教えてください
医療分野で事業を続けるためには、医師・患者さん等の様々なステークホルダーの方々から信頼いただくことが何よりも重要だと感じています。 これまで通り、医師・患者さんへの貢献を一番に考えて、地道にコツコツと事業を進めていきたいと考えています。
医療系ベンチャーに対してエールをお願いします
いち早く開発して世に送り出すというITベンチャーの事業を短距離走に例えると、エビデンスを蓄積しながら着実に開発し、当局からの承認を受けて世に送り出すという医療系ベンチャーの事業は長距離走に似ています。最初の1キロを全速力で走って途中でばててしまわないように、最後まで走り切れるペースで事業を進めて、会社を成長させていくことが重要です。そのためにも、MEDISOのような支援機関を積極的に活用していくべきだと思います。