2023.03.13MEDISO:インタビュー
認定VCインタビュー 東京大学協創プラットフォーム開発株式会社・大堀 誠様
国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)の「認定VC(ベンチャーキャピタル)」シリーズ、今回は東京大学IPC株式会社(以下「東大IPC」)のライフサイエンス部長である大堀誠様に東大IPCでの取組と日本のライフサイエンスベンチャー業界について語って頂きました。
最初に大堀様のご略歴を教えてください。
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東大薬学部とその大学院を修了後、藤沢薬品工業株式会社(現 アステラス製薬株式会社)に研究者として入社しドラッグディスカバリーを担当してきました。当時は、化合物を大規模かつランダムに集めたケミカルライブラリーをスクリーニングするハイスループットスクリーニングの黎明期で、大手製薬企業は自社システムの規模感を争っていました。その一方で、それまで苦闘中だった抗体薬等の新モダリティーをようやく成功させたベンチャーが急激にその存在感を増していった、そんな創薬の大きな変遷の時代を研究者として経験してきました。
研究者として創薬にかかわる中で「一つの会社の研究所で全てのモダリティをカバーしきれない時代が来ている。これからは世界中で起こっているイノベーションの種を取り込むスピードを争う(今でいうオープンイノベーションの)時代が来る」と強く感じました。そこで志願して社内のベンチャー投資部門に異動し、シリコンバレーやボストンでバイオ系や医療系のベンチャー投資やマネジメントを経験しました。特にライフサイエンスの分野は産学官が連携したエコシステムが重要だと感じていたところ、ご縁があって東大IPCに参画し今に至ります。
東大IPCの投資先の特徴を教えてください。
当社のポートフォリオをその投資額で分野別にみると、おおよそライフサイエンス(アグリテック含む)が5割、IT・AI・サービスが3~4割、ハードウェア・宇宙が1~2割です。ライフサイエンスの中では、創薬が8割弱を占め、デジタルヘルスを含む医療機器とアグリテックが合わせて2割強という割合になっています。
私が担当するライフサイエンスは、基礎科学的成果からのイノベーション創出が活発な分野ですが、アカデミアから生まれたテクノロジーに対して産業的視点の専門性を背景にデューデリジェンスを行い有望な案件に投資する、という形でアカデミアVCである当社の強みを活かせる分野だと思います。ライフサイエンスはソフトウェアなどのその他ベンチャー産業分野と比べ、学問的成果に基づいて産業応用が築き上げられるケースが多く、「大学の先生方が最先端の科学を開拓し、我々VCが市場も見極めながら事業化にむけてハンズオンでフォローする」という形が作りやすい分野だと考えています。
アメリカでの経験も踏まえて、日本のライフサイエンスベンチャー業界の変化をどのようにとらえていますか。
米国における新型コロナウイルス感染症のワクチン開発の事例などを見て、「大企業独自の開発からオープンイノベーションへ」という考え方が日本にも広く浸透したと感じています。
VCによる投資のスタンスも変化しています。以前は、欧米VCと比べて小さく不十分な金額をいろいろなところに投じてみて様子をみるスタンスも多かったように思います。そうすると、スタートアップが開発の結果を提示できるところまでたどり着くことができず、そんな中途半端な成果では他のVCが助け舟も出せず、ということが発生しやすくなります。しかし最近では次の資金調達に必要なマイルストンとそこまでに必要な資金量を見極める能力が経営陣、VC共に向上したと思います。とはいえ、海外では日本以上にシードやアーリーフェーズで大きな資金調達が可能で、まだまだ日本の投資環境が米国等に追いついたというわけではありません。また、国内外ともにポストコロナに入ってよりセレクティブに投資先を見極める流れが出ています。今後も手を緩めることなく有望なベンチャーにより一層力強く投資するため資金確保の努力をしなければならないと思っています。
学生の起業意識の向上も、アカデミアVCとして大学と近い距離で活動しながら肌で感じています。昔から優秀な学生は鼻がきき、これから伸びる分野、成長できる分野に集まるものですが、最近は起業やベンチャーへの就職がそうした学生の選択肢に入るようになっているように思います。ライフサイエンス分野は他のベンチャー業界と比べて事業化までの道のりが長く地道な積み上げが必要な分野ではありますが、私もライフサイエンス領域のベンチャーエコシステムの一端を担う者として、優秀な学生にもっと入ってきてもらえるよう、業界を盛り上げていきたいと思っています。
ライフサイエンスベンチャー業界をより活性化するために一つ施策を提案するとしたらどのようなことを考えますか。
日本のライフサイエンスに関する公的な施策というのは金額的に充実してきていますし、制度的には海外に勝る部分も多くあり、これはベンチャーにとってとてもありがたい環境が整ってきていると思いますし、今後も拡大・拡充していっていただきたいと思います。あえて活性化策を挙げるとするならば、現場を信じたファンディングというのがキーになるのではと考えています。ベンチャーですから失敗も多く発生するわけで、任せておくことが心配という心理も理解できるのですが、一番失敗したくないと思って奮闘しているのはそのスタートアップであり、それを支えるベンチャーキャピタリストです。敢えて選んだいばらの道を、みんな全力で成功を目指して取り組んでいますので、彼らがスピード感と柔軟性をもって動けるようなファンディングスキームが充実すると、その成長は益々加速するように思います。それを実現するためにも支援対象と方向性をしっかり見極め、そして支援すると決めたら必要なリソースを投じてハンズオンで一緒に進んでいく、その役割を我々VCも担っていきたいと思っています。
(取材者:三菱総合研究所 山口将太・末松佑麿)